ミュージアムのひととき
第10回 Papahānaumokuākea (パパハナウモクアケア)

<写真 1:Journeys 開催中のロングギャラリー >
ハワイアンの伝統的なお話の中に、どのようにハワイ諸島ができたのかに関するものがあります。Papa(パパ:大地の母)とWākea(ワケア又はアケアという天の父)がハワイ諸島の両親であったというお話は中でもよく知られています。ハワイ語でhānau (ハナウ:生まれる)、moku(モク:島) という意味がありますからPapahānaumokuākea(パパハナウモクアケア)でWākea(又はĀkea )とPapa の間に生まれた島々ということを表しています。
ミュージアムのひととき
第1回 人類学部 篠遠喜彦博士 [プロフィール]
第2回 古文書館 館長 デソト・ブラウン
第3回 Makahiki (マカヒキ)
第4回 Kumulipo (クムリポ)
第5回 Heiau (ヘイアウ)
第6回 Heʽe nalu (ヘッエ ナル)
第7回 Maui a me Manaiakalani (マウイとマナイアカラニ)
第8回 Manu (マヌ)
第9回 Manō(マノ)
第10回 Papahānaumokuākea(パパハナウモクアケア)
第11回 Hulia Ano(フリアアノ)
第12回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻaの世界一周航海
第13回 Holo Moana(ホロ モアナ)
第14回 ハワイの伝統航海カヌーHōkūleʻa の世界一周航海
第15回 UNREAL (アンリアル)
第16回 私が見て感じたラパ・ヌイ イースター島
2006年に当時のブッシュ大統領がハワイの主要八島より北西に広がるNihoa(ニホア)島からKure(クレ) 環礁までの北西ハワイ諸島とその近海をアメリカ初の海洋国定記念区域と指定しました。そして一年後にその地域がPapahānaumokuākeaと名づけられました。
今回は”Journeys”(ジャーニーズ)というタイトルで2016年8月14日にオープンした Papahānaumokuākeaに関する展示についての紹介です。
< ”Journeys”:ロングギャラリーで2017年2月26日まで開催>
ビショップミュージアムではこの”Journeys” の展示を5つのエリアに分けてフォーカスしています。
- Papahānaumokuākea 海洋国定記念区域について
- 北西ハワイ諸島の歴史
- 海洋自然について
- 陸上自然について
- Papahānaumokuākeaの文化的重要性について
会場となっているロングギャラリーではビショップミュージアム所蔵のコレクションや体験型の展示を通してそれぞれのエリアについて学ぶことができます。

<写真 2:北西ハワイ諸島とハワイ主要八島の地図。地図をクリックすると拡大します。点線で囲まれた部分が2016年9月以前の海洋国定記念区域、直線で囲まれた部分がそれ以降に拡張された区域を示しています。>
このテーマは会場となっているロングギャラリーのほぼ中央に展示されています。テーブルの上に設置されている地図(写真2)でハワイ主要八島と北西ハワイ諸島の位置関係がわかります。また、日本の本州やアメリカ、カリフォルニア州の地図がありますからそれらと比較して島々がかなり大きな範囲に点在していることがわかります。ちなみに、Nihoa島からKure環礁まで広がるこの北西ハワイ諸島は1200マイル(約2000キロ)に亘っています。火山活動によって長い年月をかけてどのようにハワイ諸島が出来上がったのか、また環礁がどのように作られるのかといったことについてもパネルに説明があります。
まず1903年にセオドア・ルーズベルト大統領がMidway(ミッドウェイ)環礁を鳥の保護地区として制定したことから始まりました。2006年にジョージ・ブッシュ大統領が生態系の健全と多様性、そしてネイティブハワイアンの文化的意義を半永久的に守るため約139,793平方マイルに及ぶこの北西ハワイ諸島をアメリカ初の海洋国定記念区域として制定。2010年にはユネスコの世界遺産にも登録されています。そして今年2016年、バラク・オバマ大統領によって更に保護地域が582,578平方マイルまで拡大されたことにより、このPapahānaumokuākeaは世界で一番広い海洋保護区域となりました。
2. 北西ハワイ諸島の歴史
1923年から1924年にかけて行われた大掛かりな北西ハワイ諸島の調査にビショップミュージアムの学者も参加しました。昆虫、鳥、腹足類、植物、海洋生物など、1000以上の標本や写真をこの時に集めていますが、このエリアではそれらのコレクションの中から数点を展示しています。このコレクションを通して北西ハワイ諸島とビショップミュージアムの繋がりを見ることができます。
またこのエリアではその他に下記のような展示があります。
- 第二次世界大戦の戦闘地であり、それが映画にもなったMidway環礁。戦闘機で敵軍と対決するイメージのゲームや、その地理的な条件からどのように北西ハワイ諸島が利用されたのかを展示から学ぶことができます。

<写真 3:戦闘機コックピットを想定したゲームと1923年から1924年にかけて行われた調査で採取されたコレクションの一部>
- Midway環礁は1936年にパンアメリカン航空による世界初の太平洋横断航空便が開設されたことに伴い給油地として設備が建設されました。飛行機運航の妨げにならないようにとMidway環礁に生息していた海鳥が、またLaysan(レイサン)島では当時西洋諸国で人気のあった羽根飾りの為の羽を採取するために海鳥が大量に殺されたといった歴史もパネルの展示で見ることができます。
3. 海洋自然について
一般人が居住や旅行で北西ハワイ諸島に立ち入ることは認められていませんが、海洋生物にとっては大変重要な住処となっています。この地域に生息する海洋生物の46パーセントが世界中でここにしか生息しない固有種と言われています。更にKure環礁の水深300フィート(約100メートル)に住む魚の何と100パーセントが固有種であるそうです。
海洋生物学者が現在北西ハワイ諸島まで行き、タイガーシャークの生態の研究を行っていることを説明しているパネルや、ハワイアンの生活にも大きく関わっていた珊瑚及び貝類の展示があります。またこのエリアではハワイ固有種のアザラシであるハワイアンモンクシールの実物大のイメージと一緒に写真を撮ることができるコーナーもあります。

<写真 4:実物大のハワイアンモンクシールコーナー>
4.陸上自然について
過去の戦闘地であったMidway環礁は、何と世界の70パーセントにも及ぶコアホウドリ(約3百万羽)が生息する場所となっています。またこのエリアではMidway環礁に毎年20トンもの廃材が流れ着くことも取上げています。実際に北西ハワイ諸島に流れ着いた廃材を使って作られた Albatrash(アルバトラッシュ:アホウドリの英語名アルバトロスとゴミを意味するトラッシュの合成語)も展示されています。大量の廃材による海洋汚染、そしてそれによる生物への影響について人々に関心を呼びかけています。

<写真 5:アホウドリをはじめとする海鳥についての展示>
5.Papahānaumokuākea の文化的重要性について
このエリアのパネルではハワイの創世記 “Kumulipo”(クムリポ) にも描かれている Pō (ポー:暗闇、夜、神と先祖の霊が存在する場所)と Ao(アオ:明かり、日中、この世のものが存在する場所)についての説明があります。Mokumanamana(モクマナマナ:ネッカー島)はハワイアンにとってこの二つの場所の境界であるとされ、北回帰線上に位置しています。過去から今日までこの島に人々が定住していた記録はありませんが、儀式的な活動が行われていたと思われる跡地が数多くあります。考古学者のこれまでの調査によって、41のheiau (ヘイアウ:儀式的な建物)とも思われる石積みの祭壇が太陽の動いていく向きに沿って島の中央ライン上に点在していたことがわかっています。これらの祭壇がPō とAoの境界を意味しているかもしれないのです。幾つかの heiau から集められたユニークなkiʻi(キイ:石像)がこのエリアに展示されています。HeiauとkiʻiはMokumanamana がハワイアンの儀式的な場所として重要であったことを表していると言えるでしょう。

<写真6:ビショップミュージアム所蔵の石像に加え、ピーボディー・エセックスミュージアムとメトロポリタンミュージアム所蔵の石像が今回の”Journeys”展のために貸し出されてMokumanamana から発掘された石像六体が並んでいます。>
Mokumanamana は過去だけではなく、過去と現在、また未来をも繋ぐ重要な場所でもあります。1970年代にポリネシアの伝統航海術を復活させようとポリネシア航海協会が発足し、Hōkūleʻa(ホクレア)という双胴船で現代のテクノロジーを使わない伝統航海術でハワイとタヒチの間の航海を成功させてから40年が経ちました。ハワイ主要八島との航路に位置するNihoaとMokumanamana はその伝統航海術を学ぶ現代のナビゲーターを育成する教育の場となっています。広い海を渡ってやってきたハワイアンの先祖、ポリネシア先住民族の伝統、知恵、文化が今の時代に、そしてこれからの時代を生きる若者に引き継がれていきます。
一般の旅行で訪れることができない北西ハワイ諸島の歴史や自然について是非”Journeys”の展示を通してお楽しみ下さい。”Journeys”はビショップミュージアム内ジョセフ・M・ロングギャラリーで2017年2月26日まで行われています。
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